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洗濯をするたびに、目に見えない危機が進行している。ベルギーの首都ブリュッセルに本部を置く国際的な非政府組織(NGO)、環境基準連合(ECOS)によれば、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリプロピレンといった合成繊維は、繊維市場全体の7割を占めている。このような構図の結果、海洋に流れ着く一次マイクロプラスチックの35%は、これらの合成繊維から溶け出したものだ。合成繊維を洗濯するたびに、長さ5ミリにも満たないプラスチック製の糸が何十億本も放出される。
その規模は驚異的だ。オランダの学術論文サイト「サイエンス・ダイレクト」に公開された論文によると、1回の洗濯で平均70万本もの極細繊維が放出される。洗濯で流れ出した極細繊維のうち、廃水処理施設で捕らえられる割合は65%程度に過ぎず、かなりの量が河川や海に流れ込んでいる。
この目に見えない汚染の影響は、海洋生態系にとどまらない。英ニューカッスル大学の研究では、人間は1週間に推定5グラムのマイクロプラスチックを摂取していることが明らかになった。これはクレジットカード1枚分の重さに相当する。2022年の研究では、人間の血液サンプルの77%からマイクロプラスチックが検出された。マイクロプラスチックは肺組織や胎盤からも見つかっており、毒性や慢性炎症への懸念が高まっている。合成繊維に多く含まれるフタル酸エステルやビスフェノールA(BPA)のような特定のプラスチック添加物は、不妊症やがんにつながる内分泌かく乱物質として知られている。
ファッション業界の合成繊維の多用がマイクロプラスチックを生む
世界的に、ファッション業界は合成繊維に大きく依存している。現在製造される衣料品の70%以上に化石燃料由来の繊維が使用されており、ポリエステルだけで繊維生産全体の約52%を占めている。ドイツの調査企業スタティスタは、合成繊維の需要が2022年の639億3000万ドル(約9兆円)から30年までに930億ドル(約13兆円)に拡大すると予想している。
◆マイクロプラスチック削減のために消費者ができること
・ 天然素材を選ぶ
綿や麻、テンセルといった天然素材は合成繊維に比べて繊維の排出量が少なく、数カ月で生分解される。一方、ポリエステルは分解に20~200年かかる。
・ 洗濯の設定を見直す
温水より冷水で洗濯する方が繊維の抜け落ちが最大で30%少ない。また、液体洗剤は粉末洗剤より繊維に優しいため、摩擦による繊維の損失が抑えられる。
・ 洗濯で放出される繊維を捕らえる
極細繊維を捕らえる洗濯ネットは、1回の洗濯で繊維の放出を54%減らすことができる。洗濯機のフィルターは、洗濯中に放出された繊維が排水に入る前に、最大で90%捕らえることができる。
・ 高品質の衣類を選ぶ
高品質の衣類は繊維の抜け落ちが少ない。一方、安価なファストファッションの生地からは、高品質の衣類の2倍の繊維が抜け落ちる。
マイクロプラスチックの危機は、現代のファッションの生地の中に織り込まれている。合成繊維が市場を席巻し、何十億本という極細繊維が水路や人体に流出している現在、環境と健康へのリスクは否定できない。消費者として、天然素材を選ぶ、洗濯の設定を見直す、洗濯で放出される繊維を捕らえる、高品質の衣類に投資するといった小さな移行が、集団として意味のある変化を促すことができる。私たちの衣類から出る目に見えない極細繊維に対処することは、もはや単なる選択肢ではなく、地球と公衆衛生の双方を守るために不可欠なのだ。