奪われた森を再生し、利益を再分配。
貧困の連鎖を断った、インド・パチガオン村の物語
日本を含む世界の国々で、都市部と地方の経済格差が問題となっている。
地方の住民がより高い賃金や安定した雇用を求めて都市部へ移ることで、
地方の産業基盤がさらに大きく揺らぐ。
そして、この負の連鎖こそが格差を生み出す理由の一つだ。
この連鎖を止めるにはどうしたら良いのだろうか。
地域固有の土地を活用し、住民自らが収益を上げることで発展している小さな村がインド
にある。
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インド中部マハラシュトラ州にある、小さな村パチガオン。
住民の多くはインド最大の部族の一つであるゴンド族の出身だ。
この村では、住民主体の自治機関である「グラム・サバ(村議会)」が中心となり、
地元の竹林を活用した産業を展開。竹材以外にも森林資源を活かした果物や種子、
ハーブの収穫・販売、さらには森林の管理事業など事業の幅を広げている。
この主要産業である竹材事業は収益性が高く、
昨年度だけで370万インドルピー(約670万円)の利益を上げ、
過去10年間の収益の合計は3,400万インドルピー(約6千万円)にものぼった。
彼らのビジネスの特徴は明確なリーダーや最高経営責任者がいないことだ。
会議の議長を務める人がその日の意思決定をし、
類処理を担当する人が一人いるだけという。
しかし、この事業は天候の影響を受けやすいという課題もある。
特にモンスーンの時期には竹の伐採が中止されることもあり、
収入が不安定になりがちだ。しかしパチガオン村では、
その間の収入減を補う仕組みが整っている。
伐採ができない期間、村では排水溝を掘ったり穴を埋めたりする
インフラ整備の作業が行われ、
それらに従事する村民には竹産業から得た利益が給与として支払われる。
これにより、コミュニティ全体が安定した収入を得られる仕組みになっているのだ。
この収益はグラム・サバを通じて男女の区別なく分配され、
村の子供たちの高等教育、インフラ改善、
さらに事業拡大のための土地取得などに活用されている。
彼らの事業は、森林の権利を獲得することから始まった。
当初、この地域の森林は住民の所有ではなく、
行政機関である森林局の管轄下にあったためだ。
インドがイギリスの植民地となる以前、森林地域は国家の領土の一部として扱われ、
各地方の王や指導者の支配下にありながら住民による森林利用が容認されていた。
1860年代になると植民地政府はインドの森林を歳入源とみなし、
住民の伝統的・慣習的権利を無視して、政府による森林管理を強化した。
2006年にインドで森林権法が制定され、
そこには森林に居住する指定部族およびその他の森林居住者に、
森林を受け渡すことが明記されている。
しかし、法律に対する森林住民の認識の低さと、州側の消極的な態度により、
これらの法律は実質的に力を持たなかったという。
パチガオンの住民は2009年に森林権を申請。
2,500エーカー(約1,010ヘクタール)の森林地の管理権を獲得できたのは3年後の2012年
のことだった。
彼らは現在の生計だけでなく、未来にも目を向けている。
竹産業を持続可能なものとするために、
森林の拡大・育成・保護に関する115の規則を策定。
竹で生計を立て続けるためには、新たな雑木林が必要であることを認識し、
植林地を拡大したり、事業で得た収益を子どもたちの教育資金に充てたりと、
環境にも配慮しながら次世代まで地域が活性化するコミュニティ・ビジネスを確立してい
るのだ。
雇用がなければ、人々は村を離れ、人口減少が避けられない。
一方で、安定した仕事があれば住民はそこに住み続け、
人口の増加が仕事の質向上や士気を高めることにつながるだろう。
パチガオンの地域の特性を活かした住民主体の事業は、
貧困問題解決の一つのロールモデルとなっていくのではないだろうか。