『土と生命の46億年史』藤井一至著
まず土とは、岩石が崩壊して生成した砂や粘土と生物遺体に由来する腐植の混合物と定義される。
重要なのは、腐植が動植物や微生物に由来する点だ。
植物が陸地に進出したのは5億年前なので、土の誕生も同じタイミングと言える。
それまでは粘土が数多の微生物たちと気の遠くなるような年月をかけて生命と土を育む準備をしてきた。
ここで断りを入れると、本書は土を切り口に、化学、土壌学、細菌学、
鉱物学などあらゆる学問を横断し、化学式や専門用語も頻出するため、
シンプルなテーマでありながら内容はなかなかに難しい。そもそも時間スケールが途方もない。
事実として、1センチの土の生成には100年から1000年かかる。さらに厄介なのは、
岩石を土に変える腐植の中で、化学構造を特定できている物質はたった数パーセントの数十万種類であり、大部分は名前さえない。
不死の肉体でもない限り人間の寿命では腐植が分解される様子を観察できないが、
風化のタイムカプセル実験は既に行われている。
昭和54年に先輩研究者が埋設した鉱物サンプルを著者が40年ぶりに回収したところ、
岩石粉末が「土のようなもの」となっていた。この結果から著者は人工土壌の希望を見出す。
気候変動、土壌汚染が進めば、作物が育たなくなる。食糧が減れば、
人類存続が危うくなる。だが絶望は愚か者の結論だ。土という足元の小宇宙に肉薄する、
比類なきポピュラーサイエンス書だ。
土の重要性を再認識!土壌研究者の藤井一至氏から学ぶ、
未来のために知っておくべき土の可能性と土壌劣化の危機。