IDEAS FOR GOOD より転用
先週末、筆者が住むフランス・パリにある世界的に有名な現代美術館・
ポンピドゥーセンターで、今や国際的に著名な日本の哲学者の講演がありました。
その人物とは、マルクス主義や脱成長の理念に関する研究で知られる、斎藤幸平氏。
同氏は2020年に著書『人新世の「資本論」』が日本で50万部以上を売り上げ、
一躍時の人に。このイベントは、フランス語版『Moins ! : La décroissance est une
philosophie(少ない!脱成長は哲学である)』の発売を記念したもので、
会場には多くの人々が集まっていました。
「私たちは一生懸命働いているのに、なぜ幸福になれないのでしょうか。気候危機が地球を破壊していることはわかっているのに、なぜビジネスはいつも通りに進められているのでしょうか。この問題を解決するためには、根本的に異なる改革が必要であり、その答えが『脱成長コミュニズム』であるというのが、私の主張です」
日本人としてサステナビリティに関する取材をフランスでしていると、
斎藤氏について尋ねられることも増えました。
「脱成長」という概念に関しては、これまでも様々な本が書かれていましたが、
このテーマがこれほどまで国民に支持され、
本が売れたことは世界でも“異例”の出来事であったからです。
斎藤氏の功績は世界的に評価され、メディアで彼の名前を見ない日はないほど。
彼の著書は現在、12ヶ国語に翻訳されています。
「今日、誰もが資本主義が大きな地球規模の危機を生んでいることを知っています。しかし、問題があまりにも抽象的すぎて、個人として何ができるのか分からなくなっているのです。結局、多くの人がエコバッグやエコボトルを買うのは、他に何ができるか想像できないから。よく言われるのは【資本主義の終わりを想像するよりも、世界の終わりを想像する方が簡単だ】ということです。これが、今日の私たちの想像力の限界を示しています」
よく脱成長は「緊縮」や「質素」と結びつけて考えられますが、
今世界で議論が進む脱成長の概念は、決してそうではありません。
斎藤氏は脱成長を「公共の豊かさ」や「公共の贅沢」であると表現します。
資本主義の基本原則は「商品化」ですが、
斎藤氏がこれからの進むべき方向として挙げるのが「共通化(コモン)」の拡大。
私たちがすべきことは、単に「エシカル商品」を購入することではなく、
公共交通機関への投資を増やし、カーシェアリングシステムを拡大し、
さらに自転車利用を促進すること。
公共の財やサービスに誰もが無料でアクセスできる仕組みを構築することで、
社会全体が豊かさを享受できる状態を作り出すことができるというのが、
今世界で支持されている斎藤氏の主張なのです。
資本主義の外側にある可能性を、個々人が想像することは難しいと思う人もいるかもしれません。
斎藤氏はトークセッションの中で「小規模なローカル活動の重要性」を話しました。
斎藤氏は本の出版後、友人たちと一緒に「コモンフォレストジャパン」というグループを
立ち上げています。地元の森を共同で購入し、その森をコモンズとして再生させる活動です。
斎藤氏は、著書の中でも「人口の3.5%の人々が根本的に行動を変えれば、
社会は必ず変わる」と主張しています。
こうしたローカルな実践が、より広範な視点から世界的な危機にどう対処するかについて
の洞察を与えてくれる──重要なのは、私たちが世界的な危機に直面している一方で、
その実践やアクションは各地域の実態に合わせて適応させる必要があるということ。
私たちが今直面しているグローバルな危機に圧倒されるのではなく、
むしろターゲットを絞ったローカルな行動を起こすことが重要なのです。
そう足元を見て考えれば、自然と今自分ができることも見えてくるかもしれません。
斎藤氏自身も、かつては「脱成長は退屈で良くないもの」と思っていたと言います。
世界そのものを変えるには時間がかかりますが、今日のこのような議論は、
少なくとも10年前には存在し得なかったものです。
そう考えれば、日本の哲学者の思想が国内だけでなく世界中に広まり、
これほどまでに支持されていることは、今グローバル規模で大きな価値転換を示している
と言っても過言ではないかもしれません。
ノーベル経済学賞を受賞した、
アメリカの経済学者「ジョセフ・E・スティグリッツ」も絶賛の
宇沢弘文の「社会的共通資本」に似た提言でしょうか?
社会的共通資本とは、経済学者の宇沢弘文氏(1928-2014年)が提唱した概念で、
すべての人びとが、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、
人間的に魅力のある社会の安定的な維持を可能にする自然環境と社会的装置のことで、
これを社会共通の財産とする考え方らしいです。
世の中に広く知れたことですが。
エコノミーという英語を「経済」と訳した福沢諭吉。
経済の語源が「経世済民」。
「経世済民」とは「世よを經をさめ、民たみを濟すくふ」の意味らしく。
経済について、私は全くの門外漢ですので・・・
自ら考え、行動するのみかと。