トランプ政権の度重なる関税措置、ホルムズ海峡の閉鎖などによりインフレが加速している。消費財の高騰を背景に、富裕層と中間・低所得者層の間で支出額が極端に分かれる「消費の分断」も浮き彫りになってきた。こうした急激な環境変化を受けて、米小売各社の戦略も大きく変化。商品戦略の抜本的な見直し、ECへの巨額投資、新たな店舗フォーマットの創出など、各社がさまざまなアプローチで生き残ろうとしている。他方、上位集中の動きも加速。2025年度の連結売上高ではアマゾン(Amazon.com)がついにウォルマート(Walmart)を上回るというニュースも大きな注目を浴びた。国内政治と世界情勢が複雑に絡み合い、先行きに不透明感が増す中、この先業界はどのように動いていくのか。本稿では販売額ランキング上位企業を中心に、最新の動きをダイジェスト版でお届けする。
米小売業の21年~25年の年平均成長率は5.3%
ユーロモニターの調べによると、2025年の米国小売(自動車、ガソリンなどの燃料を除く)の市場規模は、対前年比2.4%増の4兆5314億ドル(約711兆円)だった。21年から25年までの過去5年間の年平均成長率は5.3%と、堅調な推移を示している。
販売額ランキングトップ10社の顔ぶれは前年から大きくは変わっていない。
首位ウォルマート(Walmart)、2位アマゾン(Amazon.com)、3位CVSヘルス(CVS Health)、4位コストコ・ホールセール(Costco Wholesale)、5位クローガー(Kroger)、6位ウォルグリーン(Walgreens Boots Alliance)、7位ターゲット(Target)までは前年同様だ。
次いで8位に入ったのはホームセンター最大手のホームデポ(Home Depot)で、前年10位から順位を上げた。医療保険・ヘルスケア大手シグナ(Cigna)は前年11位から順位を2つアップして9位、アルバートソンズ(Albertsons)は1ランクダウンの10位となった。
前年との比較で販売額を減らしたのはターゲット(1.9%減)のみで、それ以外の企業はすべて増加している。中でもアマゾン(11.6%増)、コストコ(10.4%増)、シグナ(12.9%増)の3社が2ケタ成長を遂げた。
過去5年間(21年~25年)の平均成長率に目を向けると、上位10社はすべてプラスで推移。ここでもアマゾン、コストコ、シグナが2ケタ成長となっている。
アマゾン、連結売上高ではウォルマート超えを達成

連結売上高ではウォルマートを超えたアマゾン。ただし実店舗では「アマゾンフレッシュ」「アマゾンゴー」を全店閉鎖している
なお、25年度の連結売上高では、アマゾンがウォルマートを超えるという快挙を成し遂げた。ウォルマートの26年1月期の売上高7131億ドルに対して、アマゾンの25年12月期の売上高は7169億ドル。その差はわずか38億ドルだが、ECの巨人がついに”ウォルマート超え”を果たしたことは、米国内外で大きく報じられた。
もっとも、アマゾンの成長はEC事業の堅調に加え、クラウド事業AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)や広告事業の急成長によるところが大きい。一方で「アマゾンゴー」「アマゾンフレッシュ」は全店を閉鎖し、現段階ではEC・デジタルを主戦場としている。
対するウォルマートは、既存店成長率が4.3%に上るなどリアル店舗事業は依然好調の波に乗る。また、これまでのフルフィルメント領域への投資が奏功し、EC事業の売上高が1500億ドルを突破。リアルとECの双方で大きな存在感を示している。「小売」というビジネスの枠の中でいえば、ウォルマートはいまだにアマゾンを含め、他を圧倒していると言える。
絶好調のコストコ、復調のクローガー、低迷のターゲット

このほか力強い成長を見せつけているのがコストコだ。直近の26年度第2四半期決算は、売上高が対前年同期比9.1%増の682億4000万ドル、会員費を含めると約696億ドル(約10兆9272億円)に上る。特筆すべきは既存店成長率で、同7.4%増と絶好調。出店コストが高騰する中、新規出店に依存することなく高い成長率を維持している。
24年度は6年ぶりの減収に沈んでいたクローガーは、復調の兆しが見える。25年度の売上高は対前年度比0.9%増の1476億ドルと、微増ではあるが増収に転じた。けん引役となっているのがファーマシー事業とEC事業。このうちECでは、英オカド(Ocado)との提携による大型自動フルフィルメントセンターを軸としたセンター出荷型のモデルを縮小、店舗出荷型にシフトする動きを見せ、配送コストとサプライチェーンコストの削減につなげている。
一方、販売額ランキング上位10社で唯一減少となったターゲットは、業績回復に向け急ピッチで各種施策を遂行している。同社の25年度の売上高は対前年度比1.7%減の1047億ドルで、22年度をピークに漸減傾向にある。足元の不調は、人種的マイノリティの雇用目標などを定めた「DEI」の目標廃止などに伴うボイコットの影響が大きいが、売場や商品の魅力低下も根本的要因の1つとなっている。そうした中、今年2月にはマイケル・フィデルケ氏がCEOに就任。マーチャンダイジングの再強化、購買体験の向上などを戦略の柱にテコ入れを図っている。
”トランプショック”が尾を引きインフレがいっそう苛烈になる中、米小売業の行く末は不透明感が増している。消費環境が厳しくなる中、各社はどのような戦略で生き残りと持続的成長につなげようとしているのか。本特集では注目企業の最新動向や最新のトレンドを詳しく解説していく。
