2021年10月1日に英国(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)で施行された、食品表示に関する非常に厳格な法律です。
正式名称は「PPDS(Prepacked for Direct Sale)食品表示法」といいます。この法律が誕生した背景には、一人の少女の悲劇的な事故がありました。
1. 制定のきっかけ:ナターシャ・エドナン=ラペルーズの悲劇
2016年、当時15歳だったナターシャさんは、ロンドンのヒースロー空港にある人気チェーン店「プレタ・マンジェ(Pret A Manger)」で、店内で調理・包装されたサンドイッチ(バゲット)を購入しました。
事故の経緯: 彼女は重度のゴマアレルギーを持っていましたが、パッケージに成分表示がなかったため、安全だと信じて食べました。しかし、生地にはゴマが練り込まれていました。
結末: 離陸後の機内でアナフィラキシーショックを起こし、医師である父親がエピペンを2本打ちましたが効果がなく、帰らぬ人となりました。
当時の法律の穴: 当時は「店内で調理・包装して販売する食品(PPDS)」については、棚に掲示するか、店員に聞けば教えるという運用で、個別のパッケージへの表示義務がなかったのです。
2. ナターシャ法の具体的な内容
この法律により、販売形態に関わらず、「その場で包装して販売されるすべての食品」に以下の表示が義務付けられました。
食品の名称
全原材料のリスト
特定アレルゲンの強調表示(14大アレルゲンを太字や色を変えて目立たせること)
対象となる食品の例:
店内で作られ、客が手に取る前にパックされたサンドイッチやサラダ。
カウンターの後ろで箱詰めされ、棚に並べられたパイやケーキ。
スーパーの精肉・惣菜コーナーで店内でパックされた商品。
3. この法律が社会に与えたインパクト
① 「自己責任」から「企業の責任」へ
以前は「アレルギーがあるなら店員に聞くべきだ」という風潮がありましたが、この法律は「命に関わる情報を開示するのは、提供する側の最低限の義務である」**とはっきり定義しました。
② ロンドンの学校研修への流れ
現在ロンドンで進んでいる「全職員への研修義務化」は、このナターシャ法の精神を「食」から「教育・環境」へと広げたものです。「表示漏れ」というミスが命を奪うことを社会が痛感したため、学校という公共の場でも「知らない」「聞いていない」を許さない体制作りが急務となったのです。
