今や、戸建て住宅やビルの屋根に太陽光パネルが設置されていても、驚くことはなくなっただろう。
固定価格で電気を買い取ってもらえるFIT制度や自治体による補助金が整備され、
全国各地で太陽光パネルは飛躍的に普及した。
2011年から2015年に建てられた戸建てに住む世帯のうち30.5%、
2016年以降に建てられた戸建ての場合22.2%が太陽光パネルを設置している(※1)。
しかし、その寿命はおよそ30年と言われ、2040年頃から大量の太陽光パネルが廃棄されることが懸念されている。
さらに、これまでパネルのリサイクル方法が確立しておらず、
処分の際に有害物質が発生することからガラス部分以外は埋め立てられてきた。
環境負荷が低い発電方法において利用される太陽光パネルが、
結果として埋め立て処分により素材の再利用を妨げ、
生態系への負荷も増してしまい、新たな課題を生んでしまっているのだ。
世界各地で共通するこの課題に、イタリア・ヴェネツィアのスタートアップ企業「9-Tech」が解決策を見いだした。
アルミフレームを外した太陽光パネルから、熱処理でガラスと銅・錫(すず)を抽出し、
チップ状にしたパネルに超音波処理を施して銀を取り出すと、
シリコンやアルミニウムが残るという。
これによりパネル素材の最大99%を回収することができる。
さらに、同社の方法では有害物質を生成することがない。
焼却炉で約400度に加熱してポリマーを蒸発させ、その煙をフィルターで捉えているそうだ。
2024年現在、同社はヴェネツィアのパイロット工場で試験運転を行い、このリサイクル技術の産業化に向けて準備を進めている。
すでに、回収される素材が二次原料として有効であると分かっているという。
環境問題を解決するはずの太陽光発電が、新たな問題を引き起こしては本末転倒だ。
今は「脱プラスチック」が求められるプラスチック素材も、
かつては金属の代わりとして社会を支える存在であった。
完璧な解決策はないからこそ、一つひとつのアクションに伴う懸念点から目を逸らさないことが重要だ。
また、これはリサイクル段階だけの課題ではない。
そもそも、より長く使い続け、より簡単に分解できるデザインの太陽光パネルが必要とされている。
9-Techのリサイクル技術が、この議論を加速させることに期待したい。