2024年7月、EUで「修理する権利」指令案が発効されました。
これにより、テレビや携帯電話などの11品目が購入から最大10年間、
技術的に修理可能な製品の修理をメーカーに義務付けることや、
純正メーカー以外の独立修理業者が修理できるよう、
純正部品が適正な価格で販売されること、
また修理を妨げるソフトウェアの禁止などが定められました。
リサイクル等に比べて最小限のエネルギーで製品を長寿命化する「修理」は、
サーキュラーエコノミー実現の重要なカギであり、
特に欧州では利用者がより簡単に、
安く、早く修理を受けることができる権利を認める動きが盛り上がっています。
こうした「修理する権利」拡大の背景にあるのが、
地域レベルで市民を巻き込み、リペア運動を盛り上げてきた、
オランダ発祥のリペアカフェです。
リペアカフェとは、壊れた家電や服、自転車など、
あらゆるものを地域のボランティアが無料で直してくれる場所のこと。
2009年にオランダの首都アムステルダムで生まれて以来、
市民を巻き込み続け、現在アムステルダム市内では約40拠点に、
世界では3,500拠点以上にまで広がるムーブメントに成長しています。
なぜこれほどまでにリペアカフェは人々を巻き込むことに成功しているのでしょうか。
アムステルダムに住みながら、リペアカフェをテーマにドキュメンタリー撮影を行った筆者の経験から、
3つのポイントをみていきたいと思います。
一つ目は、アクセスのよさです。リペアカフェは、
ショッピングモールのイベントスペースや地域センターなど、
市民の生活動線上で開かれ、参加費は無料もしくは少額の寄付となっています。
そのため、老若男女問わず、通りがかりの人も参加しやすくなっているのです。
市としても、サーキュラーエコノミーに関連する取り組み支援として、
開催場所の提案や貸し出しなどをサポート。
また、毎月決まった曜日、時間帯に定期的に開催することが多く(例えば第1水曜日19時から22時まで)、
次第に地域の口コミで広がっているのです。
二つ目は、手触り感のある価値体験です。リペアカフェは、
関わる人自身にとっても、社会にとっても、
活動の価値が感じられる場になっています。
例えばリペアカフェでは「壊れたものを安く直して使う」という経済的・実生活的な価値に加え、
目の前で修理されるモノをみながら、
「環境にとっても良いことをしている」という心地よさを実体験できると感じます。
また、修理するボランティア側も、目の前の修理が成功して喜ぶ人から直接感謝されることで、
「地域で暮らす誰かのためになっている」という実感を持つことができるのです。
三つ目は、多様な楽しみ方です。リペアカフェは、
関わる人のモチベーションのレベルに応じて、様々な楽しみ方が用意されています。
会場を見渡してみると、修理をしにきたのではなく、
ただコーヒーを飲んで話しているだけの人もいます。
そして、自分自身もボランティアになりたいと思った人に対して、
修理の基礎を学ぶ講習会が開かれたり、
修理のプロセスをそばで観察する機会を作ることも。このように、
様々なモチベーションを持つ人を歓迎するために、
入り口のハードルは低くしながら、それぞれにとってのリペアの楽しさを感じてもらい、
徐々にモチベーションを高めていく仕組みがあるのです。
このように、リペアカフェの活動をみていると、
アクセスのよさ、手触りのある価値体験、
多様な楽しみ方といったポイントを組み合わせて、
「気づいたら循環の輪の中に入っていた」という体験をデザインしているように思います。
これらの視点は、企業や行政のサーキュラーエコノミーの取り組みにも生かせる点があるかもしれません。
お店では修理を受け付けてくれない壊れた家電や服、
自転車など、あらゆるものを地域のボランティアが無料で直してくれる、
オランダ発祥のリペアカフェ。
実は彼らの役目は、モノを修理するだけではない。
離れ離れになった家族の「思い出」、
疎遠になりつつある地域の「コミュニティ」、
捨てることを前提に成り立つ消費社会の「システム」…
リペアカフェにはどのような人とモノが集うのか?
壊れかけた「モノ以上のもの」を直す人々の物語がここにあるようです。
IDEAS FOR GOOD様の記事を転用