ついに始まった「中高生のスマホ断ち」の実験ともいえる取組。
スマートフォンが子どもたちのメンタルヘルスに与える影響が懸念される中、米国では学校でのスマートフォンの使用を制限する動きが各州に広がっている。そんな中、ニューヨーク市の公立中学校の3分の1以上で使用されているスマホ専用のポーチが注目を集めている。
サンフランシスコのYondrというスタートアップが開発したこのポーチは、スマホよりも一回り大きい細長い筒状の形状で、端末を中に入れてボタンを押すと、専用のツールで磁気ロックを解除しない限り、スマホを取り出せなくなるものだ。
テキサス州のリチャードソン高校は先日、このポーチを2800人の生徒たちに配布した。生徒たちは、朝の登校時にこのポーチにスマホを格納して端末を利用できない状態にし、放課後に学校の出口に設置されたYondrのツールでロックを解除して帰宅する。
リチャードソン高校で歴史を教える教師のマーティン・ラッセルは、このポーチを導入して以来、生徒たちの教室での態度が一変したと話す。「生徒たちは再び授業に関心を持ち、質問をするようになった。彼らがスマホばかり見ていた時と違い、繰り返し説明する必要もない。休み時間の生徒同士の会話も増えた」と彼は語った。
今から約10年前にYondrを設立したCEOのグラハム・デュゴニは当初、コンサート会場などでスマホの使用を制限するためのツールとして、このポーチを開発したという。しかし、その後、この30ドルの磁気ロック付きポーチは、学校向けのツールとして人気を博すようになった。
SNSが子どもたちのメンタルヘルスに与える影響が議論を呼ぶ中、スマホの使用を制限する学校や学区は急増している。2023年のピュー研究所の調査によると、多くの生徒がソーシャルメディアを、「ほぼ常時」使用しており、米国の高校教師の大多数が、スマホによる生徒の注意散漫が深刻な問題だと述べている。さらに、人工知能(AI)を用いて同級生のヌード画像を生成するなどの行為も問題になっている。
「若者にデジタルツールとの付き合い方を教える最良の方法は、一日に少なくとも6~8時間、スマホから離れる時間を持たせることだ」とYondr創業者のデュゴニは述べている。
各州で「学校でのスマホ禁止」が法制化
学校でのスマホの使用を制限する法律は、すでにフロリダ州やルイジアナ州、インディアナ州で施行され、サウスカロライナ州やミネソタ州、オハイオ州、バージニア州では来年施行される予定だ。カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事やニューヨーク州のキャシー・ホークル知事も、州全体での制限や禁止を推進している。
また、コネチカット州のネッド・ラモント知事も同様の計画を検討中で、特にYondrのポーチを解決策として推奨している。
デュゴニは、アトランタや故郷であるポートランドの投資アドバイザー企業に勤務した後に、2014年に同社を設立した。彼はまず、7000ドル(約100万円)の自己資金でYondrを立ち上げて、サンフランシスコのベイエリアの学校を中心にポーチを売り込んで事業を拡大し、今では70人のフルタイム社員を抱えている。
Yondrの契約額は、規模に応じて異なるが、生徒1人当たり約15ドルから30ドルで、ポーチに加えて解錠用の磁石やシステム導入のための現地サポートが含まれる。一部の学区はこの会社に数百万ドルを支払っているとの報告もある。
デュゴニは、Yondrがすでに黒字化を果たしており、顧客が世界の20以上の国と全米50州に広がっているとフォーブスに語った。同社は民間の投資家を持つが、彼らの名前や収益や評価額を開示していない。
現状でYondrの最大の学校顧客であるニューヨークでは、市内の公立中学校の3分の1以上で同社のポーチが使用されているという。デュゴニによると、昨年は世界の100万人以上の生徒がYondrを使用し、その数は2024年末までに200万人に達する見通しという。
しかし、学校での拡大には課題も存在する。スマホやSNSと共に育った生徒たちは、そのツールを規制する規則に反発し、時には親たちが抗議することもある。さらに、TikTokやYouTubeではYondrのポーチを専用ツールを用いずに解錠するための動画が膨大な再生回数を記録している(Yondrはこれらの回避策にどう対処しているかの質問には回答しなかった)。
しかし、Yondrがこれらの課題を乗り越えて、学校の支持を獲得できた理由の一つは、同社がポーチだけでなく、学校が校内でスマホを禁止するためのポリシーの策定を支援し、それを成功させるためのプログラムを提供したことだ。
「学校のカルチャーを変えようとするならば、単に製品を提供するだけでなく、コミュニティ全体の理解と支持を得ることが必要だ」とデュゴニは述べている。
リチャードソン高校の校長を務めるクリス・チョートは、Yondrのポーチを導入して以来、生徒同士の会話が増えて、カフェテリアや教室が活気づいたと述べている。「ポーチの導入が、思った以上にスムーズに進んだことに驚いている。10代の子供たちにとって、スマホを取り上げられるのは大問題かもしれないが、実際のところ学生からのフィードバックの大多数は『大丈夫だ、思ったほど悪くない。友達と話すことが増えた』というものだった」と彼は語った。