インフレが進行する中で、「正直者が馬鹿を見る」状態がどう変化するかという問いは、ビジネスの存続に関わる非常にシビアな問題です。
結論から申し上げますと、短期的には「正直者(エシカルな企業)にとっての冬の時代」がさらに厳しくなる**恐れがありますが、中長期的には「正直者しか生き残れない(馬鹿を見ていた者が勝者になる)パラダイムシフト」が強制的に起こる**と考えられます。
以下にその理由を「悲観的なシナリオ(短期)」と「希望的観測(中長期)」に分けて解説します。
1. 短期的な悪化: 「安さ」への逃避と二極化
インフレ初期~中期においては、消費者の生活防衛本能が働くため、残念ながら「正直者がさらに馬鹿を見る」状況が一時的に加速します。
・「背に腹は代えられない」消費行動
生活コストが上がると、消費者は真っ先に「高尚だが高いもの(エシカル製品)」を切り捨て、「背徳的だが安いもの(ファストファッション)」へ流れます。これまでエシカルに関心を持っていた中間層さえも、経済的圧力に負けて「安さ」に戻ってしまう現象(グリーン・ギャップの拡大)が起きます。
・コスト転嫁のジレンマ
「正直な企業」は、原材料費や適正な人件費の上昇を価格に転嫁せざるを得ません。一方で、労働者を搾取している企業は、その「搾取」をクッションにして価格上昇を抑えることができます。結果として、店頭での価格差がさらに開き、正直な商品の競争力が相対的に低下してしまいます。
・政治の「規制緩和」という誘惑
政府もインフレ対策に追われるため、「物価を下げること」が最優先課題になります。その結果、「今は緊急事態だ」という理由で、環境規制や人権デューデリジェンスの導入を先送りしたり、緩和したりする政治的圧力が強まるリスクがあります。
2. 中長期的な転換: 「ごまかし」が効かなくなる分岐点。
しかし、インフレがさらに進行し、資源価格の高騰が定着すると、これまでの「搾取による安売りモデル」自体が物理的に維持できなくなります。ここで「正直者」の逆転が始まります。
・「使い捨て」が贅沢品になる。
インフレの本質が「資源不足・エネルギーコスト増」である場合、大量に作って大量に捨てるビジネスモデルは、コスト的に破綻します。「安物を何度も買い替える」ことが、実は「良いものを長く使う」よりも高くつくことに消費者が気づき始めます(「安物買いの銭失い」の再認識)。
・「供給網のリスク」が可視化される
インフレ下では、賃金ストライキや政情不安が世界中で頻発します。これまで「買い叩いていた」サプライヤーからは優先的に供給を断られ、逆に「適正な対価を払って信頼関係を築いていた(正直な)」企業だけが、安定して商品を確保できるようになります。
・本質的価値(Asset)への回帰
お金の価値が下がる(インフレ)時、人は「ゴミになるもの」にお金を払いたがりません。売却価値(リセールバリュー)があるものや、長く使える耐久性のあるものにお金を使おうとします。「ごまかして作られたペラペラの服」は資産価値ゼロですが、「正直に作られた丈夫な服」は資産になります。
結論: 「馬鹿を見る」から「生き残る」へ
インフレは、砂上の楼閣だった「偽りの安さ」を暴くプロセスでもあります。
今の苦しい時期は、「正直者」が「ただの高品質な商品屋」から「生活防衛のための賢い選択肢」へとリポジショニングできるかどうかの正念場**です。
政治が動くのを待つだけでなく、「長い目で見れば、うちのTシャツの方があなたの財布を守りますよ(耐久性、リペア、リセール)」という経済合理性のメッセージを、今のGOTS認証という「信頼」に乗せて発信できるかが、この冬の時代を越える鍵になるのではないでしょうか。
